サンセヴェーロ礼拝堂（Cappella Sansevero）は、イタリア第3の都市ナポリの旧市街で、世界遺産としても知られる歴史地区「スカッパナポリ（Spacca Napoli）」の一角にある観光スポットです。旧市街地を東西に延びるトリブナーリ通り（Via dei Tribunali）から徒歩2分ほどの場所にある建物で、あまり大きな施設ではないものの、見応えのある作品を数多く鑑賞することができる、ちょっとユニークな美術館です。

サンセヴェーロ礼拝堂は、16世紀にトッレマッジョーレの貴族フランチェスコ・ディ・サングロ侯爵が建てたもので、聖母マリアの御霊険で病気から救われたことへの感謝をこめて捧げられました。のちの1750年には、第7代当主のライモンド公によって一族の霊廟として再建され、現在はミュージアムとして一般に公開しています。

サンセヴェーロ礼拝堂の内部では、イタリアの宗教美術を中心にたくさんの美術品を鑑賞することができます。鮮やかな天井のフレスコ画をはじめ、大理石の立像や象眼細工（モザイク）、繊細な彫刻など、飾り気のない外観からは想像できない、見応えたっぷりの空間です。加えて地下のギャラリーでは、ヒトの骨格や循環器官の様子が解るリアルな人体模型などもあり、人体の多面性を感じる展示内容となっています。

サンセヴェーロ礼拝堂の印象をやや独特なものにしている男女一対の人体解剖模型「アナトミカル・マシーンズ」は、サグロ公とシチリアの医師ジュゼッペ・サレルノ（Giuseppe Salerno）が1763年から2年がかりで製作したものです。サグロ公が地下室で秘密の実験を繰り返していたことは知られていますが、ここまでリアルな人体模型を、18世紀の解剖学知識でどのように作り得たのかは不明だそうです。

サンセヴェーロ礼拝堂は、1753年の作品「ヴェールに包まれたキリスト像（Cristo Velato）」を所蔵することで知られる美術館です。ライモンド公が彫刻家のアントニオ・コッラディーニに依頼したもので、没後は透き通るような薄布をリアルに表現する技法で有名なジュゼッペ・マルティーノ（Giuseppe Martino）が引き継ぎました。一枚の石板から彫り出された大作で、敷布のドレープや薄布がまとわりつく様子、浮き上がった血管までが見事に表現されています。

新約聖書の記述によれば、キリストは清潔な亜麻布に包まれて墓に葬られました。ジュゼッペ・マルティーノのキリスト像をよく見ると、キリストの手や足の甲には十字架に張り付けられた杭の跡までが忠実に再現されています。その足元には亡骸から抜かれた3本の杭とペンチ、そしてキリストのシンボルともいえるイバラの冠が置かれ、物語に臨場感を与えると同時に苦悩からの開放と安らぎを暗示しています。

眠るように横たわるキリスト像を囲むのは、それぞれ「10の美徳」をテーマにした彫像です。特に目を惹くのは、男が天使の助けを借りて身にまとわりつく網を振り払おうとしている「妄想からの解放」で、フランチェスコ・クエイローロの代表作です。アントニオ・コッラディーニによる「謙遜」は、ヴェールに包まれたもうひとつの彫像で、ライモンド公が亡き母に捧げたものです。

フランチェスコ・マリア・ルッソ（Francesco Maglia Lusso）による天井のフレスコ画「天国の栄光」や、当時の床に使用されていたというモダンな迷路模様のモザイクも見どころです。ライモンド公は、美術品へのこだわりが強かったために作家はたいへん苦労したとの逸話が残っています。研究好きで魔術師とも噂されていたことから、リアルな彫像は錬金術で大理石に変えたものだと信じる人もいたそうです。

サンセヴェーロ礼拝堂をご紹介しました。入場料はやや高めの設定になっていますが、見所が多く満足度の高い人気のスポットです。ナポリ観光で旧市街エリアの散策をお考えなら、ぜひ足を運んでみてください。

所在地：Via Francesco De Sanctis, 19/21, 80134 Napoli
TEL：+39 081 551 8470
営業時間：9:30～18:00
料金：€7.00
定休日：火曜
アクセス：バス停「Duomo - S.Biagio Dei Librai」下車